カツカレーを食べるたびに、小さかったころの思い出が蘇る。
小学校低学年のころ、実家の近くに「み○こ食堂」という、母親の友人が切り盛りする、小さなちいさな食堂があった。
カウンター席と、2つくらいのテーブル席があっただろうか。
悪く言えばちょっと汚い、良く言えばかなり庶民的な、
壁に貼ったメニューが黄色くなってちょっとシミがあるような、そんな店だった。
おじさんはカウンターの向こうで調理して、おばさんは接客係。
一時期、鍵っ子だった僕は、あまりにお腹が減って辛い時にふらっと店に行って
「いつもの」と言うだけで、カツカレーが出てきた。
「ほんとにけんちゃんはカツカレーが好きだねぇ」
注文はいつも同じ。
小学生ながらに「いつもの」で理解してもらえる優越感と、おじさんの笑いながら言うそのセリフが好きだった。
たしかメニューはいっぱいあったと思う。
初めての注文の時にカレーに「肉が乗っているらしい」ぐらいの知識で頼んだのがカツカレーデビューのきっかけだった。
ちょっと揚げすぎた、かなりカリカリなカツに、おそばやさんのカレーうどんにかかっているようなカレーと言えば伝わるだろうか、そんなカレーのルゥがかかっていた。
別にカレーの専門店でもないし、味が美味いかと言えばそんなに美味い方ではなかったかもしれない。
でも今思えば、おじさんと、おばさんがいて、知らないおっさんが楊枝でシーシーしてる姿、上に設置された古いブラウン管テレビの音、すすけて茶色くなった壁の色、壁に備え付けられたちいさな扇風機、それらを含めた全てが好きだった。ちょっと大人になった感覚を楽しんでいたのかもしれない。
空間を構成する要素がなんとなく未だに思い出せる。
こないだ実家に帰った時、食堂があった場所は駐車場になっていた。
ご夫婦が店を畳んだのは、さらにもっとずっとずっと前だったと記憶している。
おじさん、おばさんは元気にしているだろうか。
もちろん今日も注文したのはカツカレー。
<この文章は2016年3月に記述したものを再掲載しています。>